Terminal対談 : 中村佑介のイラスト教室

中村佑介 : イラストレーターとしての新しい取り組み

Terminal対談 : 中村佑介のイラスト教室
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Terminal対談 : 中村佑介のイラスト教室 Written - Terminal



イラストレーター、中村佑介。そのキャリアをスタートさせたASIAN KUNG-FU GENERATIONのデビュー盤『崩壊アンプリファー』(2002年)のジャケットワークから14年を経て、書籍のカバーや海外での活動などで彼について知った方も少なくないだろう。実際、彼のイラストは音楽以外の様々な分野で目にするようになった。それに加え、全国各地の講演会でも奔走する多忙な中村佑介だが、そんな彼が2015年より大阪で取り組んでいる試みがある。それは、大阪・難波にて、イラストレーターを目指す中高生や、専門学校・美大などに通っていない人々を中心に作品合評をおこなう『中村佑介のイラスト教室』だ。


公募によって参加を募り、選抜制としているこのイラスト教室、稀有なことに受講料が無料である。先述のように中学生・高校生を中心とした教室だが、イラストレーターとしての学びに積極的な主婦から、事情で専門学校などに通えなかった社会人まで、選考の上で様々な描き手が参加している。中村佑介より出される課題の提出を前提に2回の授業を1期として数ヶ月おきに開かれている合評教室であり、現在は第2期生が課題提出を終え、次回3期生を迎える準備中だ。ここでは、中村佑介との対談という形式で、改めてイラスト教室への取り組みと、実際の教室の雰囲気についてお伝えしたい。


中村佑介のイラスト教室誕生の経緯

中村佑介 : よろしくお願いします。

滝本ハルオ : よろしくお願いします。では、イラスト教室誕生の経緯から、ということで。

中村佑介 : はい。イラスト教室の構想は割と前からハルオさんに話していたと思うんだけど、以前から僕が大阪・なんばのartyard studioでセイルズ(中村佑介がリーダーを務めるバンド)のライブをしていて。で、artyard自体は音楽だけじゃなくて、絵を展示していたりするでしょ?それで、セイルズのライブをしながら僕の作品を展示させてもらっていたことがあって。

滝本ハルオ(Terminal) : そう、ライブもしつつ、制作過程が分かる原画を展示していたよね。

中村 : うん、で、僕が展覧会をするとかだと、それはもう、すぐにでも出来るんだけども、この場所は「人が集まってコミュニケーションを取る場所だ」と感じたので、本格的な展覧会をやって、例えばたくさん人が来てしまった時に、イベントとしては良いのだろうけど、来た人1人1人とのコミュニケーションは取れない。そこで思い出したのが、ART HOUSE(大阪・堀江にあるアートギャラリー)で2008年に似顔絵展で、似顔絵を描く相手300人それぞれと一対一でしたのよ。で、展示は別でやっていて。

滝本 : あそこは良い意味でコンパクトな場所で、物理的な意味以外でも、その場にいる人との近さというか、距離感が良いよね。

中村 : そうそう。それならartyardなら何ができるか考えていたんよね。音楽じゃないことでも。で、Twitterでイラスト講座っていうのを始めて。それをやり始めたのは、Twitterやってたら「絵を見て欲しい」という人がたくさんいたから、一人づつ絵の添削というか、合評みたいなことをネット上でやっていて。それは1年半くらいで本(『中村佑介のイラスト教室』)にまとまったんだけど、ただ、これでは絶対できない事があって。Twitterのイラスト講座の場合、どうしても「テキストを読ませる」みたいな一方通行になってしまうのよね。だから実は、本人より見てる人の方が吸収する事が多いように感じる事もあって。

滝本 : ああ、客観的に誰かの作品に対するアドバイスを見る事が出来るから…

中村 : そうそう。で、それこそ50人ほどTwitter上でそういったアドバイスを含めた講座をしたんだけど、作品を描き直して持ってくる人は、ほとんどいなくて。それはだって、目の前に僕がいないし、描き直さなくたって怒られないから。で、テキストだと、読んで「身になった(過去形)」と感じさせてしまうよね。自己啓発本とか、人に嫌われない50の方法、みたいに、読んだ人の現状がただ気持ちよくなるだけで、結局は成長出来ず終わっちゃうかもしれない。だから、同じ内容を伝えるにも「目の前にいて体験させる」ということだと、全然違うんじゃないかな、と思って。Twitterの講座を発展させた形でやりたいな、と思って会場を探していたのよ。

滝本 : それで、以前、僕が企画したKORGとのコラボレーション展覧会(KORG社のトイピアノをモチーフにした”tinyPIANO Exhibition”)で中村くんのバンド・セイルズがライブしていて、それが終わってから若い作家たちが持参したポートフォリオの作品にアドバイス、していたよね。合評みたいな感じで。

中村 : そう。一人見てください、ってきたらどんどん来ちゃって(笑)

滝本 : で、あの様子を見ていて、後に中高生向けにイラスト教室をやりたいね、って話してくれた時、あの時のことも結構印象に残っていて。なので、中村くんが教室をやるのも自然に感じたというか。

中村 : それもやっぱり体験にもなるんだけど、そういう場で見て合評のようにしても次いつ会えるかわからないじゃない?だからそれをやろうと思った時に、中高生や未成年に合う場所でartyardということで。保護者も一緒に来られるわけだし。で、コンセプトとしては、美大・専門学校に行きたかったけど事情で行けなかった人とか、反対されて行けなさそうな人のためにもやりたかったのもあるし。で、まあTwitterと同様に、基本的には会場での1コインの飲み物代以外、全ての人が無料、やる方も無料、という体験を作りたかったのよね。あと、大阪でやる、ということと。

滝本 : 中村くんは、ローカルでそれをやる、っていうこだわりはあるよね。

中村 :ある。実は今まで大阪に住んでいて、大阪に根付いた活動というのをほとんどしていなくて。ただ遊びに行くだけというか。

滝本 : おもちゃ買いに行くだけっていう(笑)

中村 : そうそう(笑)まあライブにしてもセイルズでは大阪よりも京都とか名古屋が多かったりとか。結局ライブって講演会と同じで、移動さえすればどこでも出来るっていう。大阪でしかできない、僕が住んでる意味があるっていうか、そういうことを昔からやりたかったけど、何やっていいかわからんかったのよね。講演会ならそれこそ今、北海道から沖縄まで全部回っているけど。

滝本 : それこそサイン会なら外国でもやってるもんね(笑)

中村 : サンフランシスコ、パリ、チェコ、台湾とか(笑)

滝本 : でも、東京に移住する作家さんもいるじゃない?それはどこかのタイミングで(大阪に)いるって決めたの?

中村 : あ、それはもう大学の時に決めたのよ。大阪芸大を卒業する時に、やっぱり先生は、イラストレーターになるんだったら持ち込みしたりしないといけないから、「出版社がある東京に行く」っていうのがもう、歴代の美大生や先生の価値観、っていうところで。もちろん今考えるとそうした方が仕事にもっと早く繋がったんだろうけど、でもいろんな人と相談して、絵を描くには暮らしやすい場所が一番いい、という話もあって。生活環境とか、生活のストレスがもろに絵に影響が出るから。あとは、ネットやね。インターネットが徐々に発達してきたから。じゃあもう今住んでる大阪が良いやろ、と。その二つの理由で大阪にいようと思って。自分の絵も、めちゃめちゃ「都会」っていうよりかは、例えば最初に住んでいた天王寺とか、なんばとか、そういう大阪らしい地方と都会の混合というか。そういう普通の風景を描きたかったから。イラストレーターになってからも、何回か転機があるじゃない?出張が増えてきたからやっぱり東京の方がいいのかな、とか。漫画家さんとかと対談したりも増えてくると、みんな東京にいるから「今度飲みに行こうよ!」と言われても行けないわけ。

滝本 : まあ、でもあなたもともとお酒飲まないじゃない(笑)

中村 : まぁ「烏龍茶で参加します!」以前に、「大阪だから無理です..」みたいな(笑)確かにそういう時は羨ましく感じるんやけど、例えばサイン会で国内を回っていて、大阪以上に、、例えば熊本とか佐賀とか、岩手、とにかくいわゆる地方都市に行くと、ネットが発達した今でさえ「何もできない」と思い込んでしまうのかな、と感じるんよね。確かにそれは一理あって、サンフランシスコに行った時に、例えば僕らが国内でアニメーターとか目指しても、ピクサーは目指さないやん?東映とか、じゃない?ディズニーとかピクサーに入ることを、多分、非現実的というか、そういう風に感じるじゃない?目標の中にまず入ってこないというか。夢のまた夢っていう棚に置いちゃうと思うんだけども。

滝本 : なるほど。

中村 : でも、サンフランシスコで会った美大生たちって、みんなピクサーとかApple目指しているんよね。それはさ、車でちょっと走ったら(サンフランシスコ近郊のエメリービルに)ピクサー・スタジオがあるからよね。でも別にピクサーの人は「入社に好ましいのはサンフランシスコ在住の学生のみ」なんて言っていないし。結局、それをいかに現実的に感じられるか、ということで。まぁ、アニメに関しては国内も少し様子が変わってきていて、京都や沖縄、秋田にもスタジオがあるし、アニメスタジオが地方にもどんどん出来てきているのよね。でも、やっぱり小説なんかを出しているような大手の出版社ってまだほとんど東京だから、イラストレーターにとっては、地方都市って、なかなか暮らしの中で夢を見られず、中高生だったら「やっぱ東京に持ち込みに行かないとあかんのかなぁ…」ってなる。周りにそういう人もいなくて、親に「大丈夫?」と一言言われるだけで、不安になる。そうすると非現実的な夢になるやん?

滝本 : それは、そこで閉ざされる感じ?

中村 : というか自分の頭でストッパーかけてしまうというか。オリジナルイラストを描くことって、中高生からしたらある一面では恥ずかしいことやと思うんやわ。他人から「何夢見てんの」みたいなことで。今、ネットであんなに絵描く人がたくさんいるのに、ほとんど二次創作を描いている現状って、すごく理解できるのよ。もちろんその漫画やアニメが好きな事が前提なんだけど、結局は恥ずかしいのだと思うんよね。オリジナルイラストを描くと、「えっ?プロにでもなるつもり?」「こんな田舎で?」みたいに言われるのが。

滝本 : 僕は逆に長年住んだ東京から、たまたま故郷の大阪に戻って仕事しているけど、そう思い込んでしまうのはちょっともったいないかな、とも思う。でも、特に若い人はそう感じてしまうかもしれないよね。

中村 : そうなんよ。もちろん二次創作も、アニメ文化やコミケなど日本の代表的文化として、それはそれで素晴らしいんだけど。これだけ絵を描く人口が多い国なのに、ほとんどが二次創作なのって、好きだからということ以外にも、どこかでストッパーかけている人もいるんじゃないかな、って。

滝本 : 若いイラストレーターが作品を発表していくにあたって、不便やな、というのはそういうところやね。その不便さを少しでも取り除けたら、っていうのもあるよね。この大阪でイラスト教室をやる、っていうのは。

中村 : うん、そうやね。でも別に大阪に限らず、自分が暮らしたい土地で何か活動をする際に、「中村さんは大阪でやってるし、漫画家の森雅之さんは北海道でやってるし、鳥山明さんは名古屋でやってるし」ってなったら、「あっ、できるかも」ってどこの地方の人でも勇気沸くやん?まぁ、「引っ越すな!」って訳でなく、それぞれ仕事がやりやすいところに行ったらいいと思うけど、一番最初に、例えば小中高生の時にその夢(地域性を超えた自分の夢の描き方)を見られるかどうか、っていうのは、その後にその子が本気で目指せるのびしろの原動力になると思う。だって、僕にとって大きかったのは、ビックリマンシールを描いているグリーンハウス。

滝本 : この前、スタッフ募集されていましたよね。

中村 : そう、そのグリーンハウスが梅田の中崎町にあるんよ。

滝本 : え、中崎町の近くなんや、、

中村 : そうなんよ(笑)子供の頃に一生懸命集めていたビックリマンシール、実は近所から発信されていたっていう(笑)さらに、キン肉マンのゆでたまご先生も大阪からだし、任天堂は京都でしょ?だから僕がイラストレーターや、当初、ゲームのキャラクターデザイナーを目指せたっていうのは、結構それらが近くにあってくれた、って言うのがデカかったのよね。本気で目指せた。子供の夢やから、学校の先生とかは「何言ってんの?」って感じじゃない?別に僕は絵が学校一上手いタイプでもなかったし、クラスで二番目とか、そんな感じで。とにかく、大阪で何かをやりたいっていうのも、やっぱりローカル性を強めた「教室」。だって教室は絶対出張できないからね(笑)ハルオさんとか、artyard studioごと東京に持っていかないと作れないわけやん?

滝本 : 僕、持っていかれるんや(笑)でもまあ、そうですよね。

中村 : artyardはもう10年くらいの付き合いやから、阿吽でできるところがあるやんか?実はこの教室を始めてから、いろんなところから、東京からとかでも「こっちでもやってくれ」って依頼があるんやけど、「絶対無理やから、やめといた方がいい」って言ってて。「絶対イラつくぞ」と(笑)。(教室に関わる諸々の準備は)「そろそろ金よこせ」っていうような労働を強いられるし。

滝本 : 多分店の人はどんなに我慢強くても、最後は怒り出すと思う(笑)。毎回、2クラスで8時間くらい授業してるよね。小学校でも6時限やのに(笑)。その間、休憩10分のみだし。まあ、会場費も数百円づつのカンパだし、中村くんにいたっては全く報酬のないボランティアやからね。でもこういう教室は、誰かがやらないと、誰もやらんでしょ。

中村 : そやね~

滝本 : まあ、誰もやらないからやる、っていうようなことやけど、、、なかなかないだろうな、と。

中村 : 基本的に僕はイラストレーターやから、イラストに関することはインタビューでよく聞かれるけど、こういう話をする機会ってないから、これは今回の対談で伝わればいいな、と思うんやけど。まず理解もされないだろうし、聞かれないからね。

滝本 : 見た人にしかわからないけど、教室の時、僕はartyard studioにいて、クラスの「職員」として奥さんと一緒に準備したりするけど、多分実際に教室に来た人って、「あっ、これイベントじゃないんだ…」ってわかるじゃない?クラスであって「催し」じゃないからBGMも何もない。それがすごく良くて。僕は高校生の時に美術研究所に通っていたから、その頃のクラスの雰囲気を思い出す。赤・橙・黄橙・黄、、って。ここは音楽とアートに関わる制作やMV撮影をしていたり、それと同時に都内からのアーティストの単独公演やローカルのイベントも行われている場所だから、そういう時にここに来てくれている人は「授業を受けられる場所」っていうイメージを持たないと思うんだけど。多分、普通のイベント会場とかだと勿論「イベント」になってしまうでしょ?「教室」とか「学校」じゃなくて。そうなると、違ったものになってしまうかもしれないよね。生徒がサービスを受けているみたいな感じになっちゃったりとか。

中村 : こっちもサービスしないといけなくなるし。

滝本 : うん。それに、自分が中学生や高校生の時にこういった教室があったらよかったのにな、っていうのは思いますけども。

中村 : 東京ではよく、会費制でプロのイラストレーターによるイラスト塾ってあるんやけども、月謝2万円とかだったらわかるけど、3,000円とかなんやったら要らんやん!って。目的が教育なのか商売なのかハッキリせーよ!って(笑)

滝本 : まあ、でもそれは本人が決めてるのかどうかはわからんけど、それはあれや、学校っていうより「塾」やからね。ただ、、、あなたのイラスト教室が無料というのは、、ちょっと正気ではない。

中村 : 正気の沙汰ではない、、、(笑)

滝本 : いい大人たちが、、、(笑)

第二回に続く

Info

中村佑介のイラスト教室

イラストレーター・中村佑介がartyard studioで定期的に行っている、年齢を問わず、美大生、専門学校生以外で「イラストがうまくなりたい!」「将来イラストレーターになりたい!」という方を対象とした講演会・作品添削会です。開催の際、新しく受講される生徒の募集は中村佑介サイト・Twitterでも告知されます。現在の第三回イラスト教室の生徒受付は終了しております。時期生徒募集(見学者含む)は中村佑介Twitterならびにサイト、artyard studio Twitterなどでお知らせいたします。

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